【水質管理】「物理ろ過」と「生物ろ過」の違いとは?どのような種類があるのか?

循環式養殖(アクアリウム含む)の「水質管理」シリーズ③
循環式養殖についての記事はこちら(循環式養殖の水質管理

濾過の「種類」について

循環式養殖やアクアリウムのように飼育水を再利用して使用するシステムでは必ず「ろ過装置」が必要となります。水質の維持・管理をする上で濾過の「種類」と「方法」、さらには各方法の原理まできちんと理解しなければなりません。養殖を新規ビジネスとして始める際には、育成する生き物(生産物)の種類、生産量、育成密度を考慮し、どのようなシステムで運用するのか事前に選定します。
今回はろ過の「種類」と「方法」について解説していきます。

ろ過の「種類」はどのようなものがあるのか?

養殖水槽の濾過方法は原理の違いによって分類すると大きく分けて「物理ろ過」と「生物ろ過」の2つの種類があります。循環式の養殖ではこの2つのろ過は必要不可欠です。
(※その他にも「殺菌」や「換水(水換え)」といった処理を追加で行う場合もあります。)

「物理ろ過」について

「物理ろ過」とは?

物理ろ過」とは水槽内の目に見えるゴミ(有機物)をろ過して取り除くことです。

循環式の水槽で魚介類を養殖していると、下記のような発生源から「有機物」が大量に出てきます。有機物が水槽内に滞留すると、分解されて毒性の高いアンモニアを生成したり、有機物自体が飼育している生き物のエラを閉塞させて窒素死させてしまいます。その他にも飼育生物に有害となるカビ等の細菌類が発生する原因にもなります。

~水槽内の有機物の発生源~
・残餌(食べ残しの餌)
・フン(糞は分解されるとアンモニアとなるが、固形のままであれば有機物)
・生物ろ過のろ材についている硝化細菌の死骸
・飼育生物の死骸
・飼育生物の代謝物(魚であれば鱗、甲殻類であれば脱皮殻、魚介類の粘液も有機物)

これらの有機物の発生源、および発生した有機物を「物理的」に水槽の外に排出することを「物理ろ過」と言います。

「物理ろ過」の方法と種類はどのようなものがあるのか?

循環式の養殖水槽には様々な「物理ろ過のシステム」が組み込まれています。
特に養殖やアクアリウムで利用されている「物理ろ過」をピックアップしてご紹介していきます。

「沈殿」による物理ろ過

「沈殿」とは飼育水と有機物(水中の懸濁物資を含む)を密度の違いによって沈殿させ、有機物を取り除く方法です。
簡単に言うと、「水の中のゴミを沈殿させて取り除くだけ」のシンプルな方法です。
「沈殿」を利用して有機物を回収するためには「沈殿水槽」を作ります。

(↑図:沈殿水槽イメージ)
上澄みのキレイな水は水槽へもどして、沈殿した有機物は取り除きます。
沈殿による物理ろ過の「メリット」はシンプルで設備の建設、運転の維持コストが安いことです。
一方、「デメリット」は100μm以下の小さな有機物は沈殿しにくく、除去効率が悪いことです。

参考:凝集剤の添加について
浄水場や下水処理場では「沈殿」の効率を上げるために、凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(PAC)が使用されますが、養殖では水生生物のエラを閉塞させる危険性があるため使用しません。また、生産物=食品であることからもPACのような凝集剤は使用したくないといった理由もあります。
(浄水場で飲料水を作る際に、多量の凝集剤を使っているのには疑問を感じます。。。)

「グラニュラーメディアフィルター(GMフィルター)」による物理ろ過

GMフィルターはつぶ状の物質を詰め込んだ濾過槽内に処理水を通して、有機物がトラップされることによって固形物を分離する物理ろ過方法です。
具体的には「砂濾過」や「ビーズフィルター」を使用した物理ろ過方法です。

「砂ろ過」
については、浄水場の「緩速ろ過方式」で使用される方法です。
緩速ろ過についてはこちらの記事(水道水の作り方)で詳しく紹介しています。
砂ろ過のスゴイところは「物理ろ過」だけでなく、砂の中に住む硝化菌によって「生物ろ過」の同時に行われるころです。

「ビーズフィルター」とは専用容器に直径が数ミリ程度の水に浮遊するプラスチック製のビーズを入れ、下から飼育水を通過させてビーズで有機物を回収し、処理水を上からもどす仕組みです。一定時間運転する回収した有機物が目詰まりを起こして閉塞してきます。その際には運転を一度停止して、ビーズを攪拌した後に汚泥を排出する「逆洗浄」を言う作業を行います。

(↑図:ビーズフィルターのイメージ)

「スクリーンフィルター(膜ろ過)」による物理ろ過

メッシュのシートによって有機物を遮り、固形物と液体を分離する仕組みです。(メッシュのシートはマイクロスクリーンとも呼ばれます。)メッシュの隙間のサイズを変えることで、処理できる有機物のサイズを自由に設定をすることがでします。しかし、実際に運用する際はメッシュサイズを小さくすると小さな有機物までよく取れますが、メッシュが目詰まりして閉塞する危険があるため育成水中の有機物の量によってメッシュサイズは調整します。

養殖で使用されるスクリーンフィルターは「ドラムフィルター」が一般的です。
ドラムフィルターはメッシュを張った円柱状の容器内部から外側に向かって水を通過させ、ドラムが回転することによって上部にセットされた高圧洗浄水で汚れを受け皿に取り、外へ排出します。

(↑写真とイメージ:ドラムフィルター 日本インカ(株)様 HPより引用)

「泡沫分離」による物理ろ過

プロテインスキマー」を使用してのろ過方法です。
プロテインスキマーとは微細な気泡を発生させて、気泡に水中の懸濁物を吸着して取り除く装置です。淡水だと気泡が発生しにくいため、海水で飼育する生き物に使用されます。
(原理的には煮込み料理のアク取りと同じです。例えばお肉を煮る際に沸騰させると泡と一緒にアク(有機物)が浮いてきます。そのアクを取ってスープをスッキリさせるのとプロテインスキマーが水槽の有機物をスッキリさせるのは同じ原理です。)

「活性炭」による除去

活性炭」により水中の微量有機物を除去する方法です。
有機物の多い水に活性炭を入れると、活性炭の表面に有機物が濃縮されて吸着されます。この吸着効果を利用したのが活性炭による物理ろ過です。活性炭が大きな吸着効果を持つのは重量当たりの表面積が大きいことが理由です。その表面積は活性炭1gあたり900m2~1800m2です。吸着材としては最上位です。
原料は植物性(木材)だけでなく、鉱物性(石油、石炭等)の活性炭もあります。(上下水等の水処理施設では鉱物のモノが圧倒的に主流です。)

「生物ろ過」について

循環式の養殖で「物理ろ過」と同様に欠かせないのが「生物ろ過」です。

「生物濾過」とは、有機物が分解されることによって発生する「水溶性のアンモニアや、亜硝酸塩」を無毒化するためのろ過方法です。
水溶性のアンモニアや亜硝酸塩は「物理ろ過」で除去した有機物のように目で見ることはできません。
「生物ろ過」ではこの目に見えない毒性の高い物質を硝化細菌(ろ過の能力を持ったバクテリア)を利用しすることによって飼育水を浄化していきます。

「生物ろ過」は物理ろ過と違い、有機物を取り除くだけではなく化学反応を利用しているため原理が複雑です。さらに硝化細菌自体が生き物であるため、菌たちの活動を最大限引き出すためにはさらに深い知識が必要です。
そのため、生物ろ過については下記の項目に分けて別の記事にて詳しくまとめていきます。

「生物ろ過」の関連記事 リンク先
窒素循環について
(アンモニア→亜硝酸塩→硝酸塩)
窒素循環についてはこちら
アンモニア・亜硝酸塩の毒性について アンモニアと亜硝酸の毒性

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です