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「AI農業」、「AI養殖」とは一体どのような技術なのか?
今、インターネットの普及によりIT(情報技術:Information technology)やICT(Information Communication Technology)やIOT(センサーなどの「もの」がネットにつながり管理される技術:Internet of Things)、AI(人工知能:Artificial Intelligence)が注目されています。
これらの技術は「農業」や「養殖」の分野でも導入が始まっています。
今回はこれらの技術の技術がどのような目的で使われているのか?
また、このような技術でどのようなことができるようになるのか解説していきます。
AI農業、AI養殖とは?
「AI農業」、「AI養殖」というとAIがすべて「判断」し、ロボットが勝手に農作業や餌やりをしてくれるような技術と想像される方が多いのではないでしょうか?
しかし、農業と養殖でAIの技術を用いても、まだそのような全自動での生産はできません。
自動車や家電製品といった「もの」を作る産業では、IT利用や機械化で高品質な「もの」を安定して生産できるようになってきました。その中で、様々な要素を分析し、改善を重ねることにより生産工程の最適化をしてきました。それにより、原価を下げ、価格競争力を得ることで高度成長期の日本の産業を支えてきました。
これらのITを利用した工業製品を生産するための「システム化された技能」は後世に伝承しやすいといった特徴があります。
一方、農業と養殖では生産するものが植物や魚といった「生き物」です。
「農業」であれば同じ品種の作物でも土壌や天候、育成方法によって状況が大きく変わります。
「養殖」であれば、水質や給餌方法、間引き管理によって育成状況は変わります。
このような環境や生き物に左右される産業では、その時々の状況を瞬時に把握し、的確な「判断」をし、すぐに実行することが求められます。
既存の「農家」や「養殖家」はこれを意識せずに各自で判断基準を蓄積し、利用しています。
いわゆる「勘」や「匠の技」といった言葉で表現されているものです。
普段の何気ない考え方がノウハウの塊なのです。
「AI農業」、「AI養殖」とは、ITを活用して「勘」や「匠の技」を可視化、共有化することで次世代にこれらのノウハウを伝承し、活用することを目的とする技術なのです。
そうすることで、「生き物」を育てるビジネスへの新規参入もしやすくなり、1次産業を活性かすることが期待されています。
「AI農業」、「AI養殖」の技術で何ができるようになるのか?
この技術でできるようになる最大のポイントは
「勘」や「匠の技」の数値化、可視化、共有化です。
IOTの技術の進歩により、今までデータ化できなかった「天候」、「気温」、「水質」といった環境や「生き物(生産物)」の状態をデータ化し、常に取得できるようになってきています。
これに加え、AIの技術を駆使することで、その環境下で「人」がどこを見て、どういった判断をしているのかといった内在化している情報を具現化することができるようになります。
つまり、人の思考やスキルをデジタル変換してストックしておける様になります。
今まで「一子相伝」になっていた技術の伝承もたやすくできるようになります。
(争うことなく、ケンシロウ、ラオウ、トキ、ジャギまでもが優秀な農家になれるようになる日がくるのです!参考:北斗の拳)
熟練農家の技術をどのように伝承してきたのか?
今までも熟練農業の技術を後世に伝承するため、ノウハウの「マニュアル化」はさんざん行われてきました。
しかし、「マニュアル」は作業の記述でしかありません。
例えば、作物や魚を育てる「マニュアル」があったとしても農作業では天候や土壌、養殖では水質、成長、密度などの状況によって「判断」が違ってきます。
工業製品と違い、状況によっての「判断」が難しく、マニュアル通りにやっても「生き物の育成」ではなかなか成果が出ないのです。そのため、農業・養殖は難しい、素人には無理と思われてしまうのです。
熟練の農家や養殖家はわずかな状況の変化を観察し、「判断」して次の行動を決めています。
今までは、そのような高度な「判断の可視化は困難」とされてきました。
更に、肝心の判断基準が何なのか熟練農家本人でさえ自覚していないことがあるのです。
近年は、AIやIOTの技術の進歩によって、「判断」の可視化を可能にする取り組みが次々と行われています。
そして、従来のマニュアルでなく、状況によって「判断」が変わるプログラムを作成し、新規就農者が短期間で技術習得のできる学習教材等もでてきています。
「まとめ」と「今後の課題」
AIを利用し、「ノウハウ」の可視化や共有化をすることがAI農業・AI養殖の目的となります。
近年はそれが実現可能に近づいてきています。
しかし、この技術の元となる「ノウハウ」は農家や企業がそれぞれ独自に「多額のお金」と「時間」を費やし開発した財産です。
それを誰でもできる形で可視化して共有されてはノウハウを開発してきた人達が馬鹿らしくなってしまいます。ここは今後解決しなければならない大きな課題です。
日本ではまだノウハウを守る仕組みが整備されていません。
例えば、「IOTのセンサーで取得したデータは誰のもの?」となってしまいます。
これのあたりがとても曖昧なままなのです。
きちんとノウハウを「開発した生産者が儲かる仕組み」を作り、さらに生産者が新しい技術開発を進歩させる。
そうすることにより、AIを利用した農業・養殖は益々発展していきます。
参考資料:神成淳司「ITと熟練農家の技で稼ぐAI農業」