人工閉鎖型の生態系で生活すると人間はどうなるのか?(バイオスフィア実験生活)

史上最大の「人工閉鎖生態系」の実験施設とは?

この施設は1991年~1993年の2年間にアメリカのアリゾナ州で砂漠の上に作られました。
ガラスで密閉された巨大な施設でこの中で男女8人が共同生活する実験が行われました。
施設名は「バイオスフィア2」と呼ばれています。
バイオスフィアとは日本語では「生命圏」であり、生物が存在する領域を意味します。
広い視点で見れば地球も閉鎖生態圏であるため「バイオスフィア1=地球」となります。

今回は「本当に人工閉鎖生態系で人間は暮らしていけるのか?」「人口生態系ではどのような問題が起こるのか?」についてわかりやすくご紹介していきます。

「バイオスフィア2」とはどのような施設なのか?

施設を作った「目的」とは?

この施設の目的の1つは「化石燃料に支えられた農業から持続可能な新しい農業を実現するため」です。持続可能な新しい農業とは「幅広い生物の多様性を残し、必要労働量を減らして、十分に経済的に採算のとれる農業」のことです。この施設では閉鎖されたシステムの中で、人間を含めた生物がどう影響を及ぼすかといった研究のチャンスをつかむために作られました。
この他にも閉鎖生態系における「種の保存」や、「栄養が人間の生理に及ぼす影響」、「閉鎖環境内の空気や水の変化を数値化」、「熱帯雨林の地球生態系に対しての役割調査」など様々な研究目的があります。

施設の設計と設備はどうなっているのか?

施設はガラスによって完全に密閉されており、敷地面積は約1.2ヘクタールです。
この施設を作るための資金調達は政府の研究機関が出したのではなく、私的なベンチャー企業によって出資されました。
施設には下記の7つのフィールドが用意されており、ミニチュアの生態系が循環できるように作られました。

7つのフィールド
・熱帯雨林
・居住区域
・海洋からサバンナ、湿地などの区域
・集約農場
・砂漠
・気圧調整用の区域①
・気圧調整用の区域②

物質的には外とは完全に遮断され、閉ざされた空間になっています。
(「太陽光・電気エネルギー」と「情報」は例外として供給外部から供給されています。)
その中で食料、水、空気に至るまでのすべてを外部からの補給なしに生活できるように設計されています。

例えば、水は循環してリサイクルされますが、このシステムでは食事やトイレで使った水が排水のリサイクルセンターで処理されて、一部は農業や畜産に使われたり、蒸発して熱帯雨林の上空に戻ったりします。そして、この一巡をする期間がわずか2~3週間という短期間で戻ってくる仕組みになっています。
石鹸やシャンプーも生物的に分解できない成分が入っていると体に蓄積されて有毒性を持つ可能性があるため持ち込むモノについては細心の注意を払わなければなりません。
(地球の自然がどれほどのバッファーを持って、私たちの環境を維持してくれているのかが良くわかります。)

どんな実験が行われたのか?

実験の内容とは?

バイオスフィア2の中では60を超える研究項目が実施されました。
そのテーマは「炭素の収支」、「土壌の役割」、「サンゴの健康」、「昆虫や植物」の研究に至るまでさまざまです。
バイオスフィアは閉鎖循環式のシステムであり、このシステムを管理するために精密な環境分析機(電子センサー2000個、自動分析機、実験室での検査)が導入されています。そのデータを速やかに測定して、実際の環境管理に活かすと同時に貴重な実験データを取得しています。

例えば、健康に被害を与えるような空気中のガス(炭酸ガス、酸素、亜酸化窒素、亜硫酸ガス、メタンガス、オゾン、硫化水槽)などを継続的に探知し、記録しています。
その他にも最初に持ち込んだ生物種がどのくらい減少したのかといったデータも取っていました。(結果的にはバイオスフィア2で生物種は急激に減少することなく20%以下で収まったとのこと。)

施設内の生活はどんな日常だったのか?

バイオスフィアの中では8人がそれぞれの仕事を割り振って生活をしていました。農作業や家畜の餌やり担当、食事の調理担当、環境制御装置や機器類の管理担当など様々です。これらの仕事のどれが欠けても食べることができなくなります。(自然の中での暮らしのイメージがありますが、実際は電気エネルギーは自由に使えるため、「警報装置」や「各種ファンやポンプ」、「海の波を起こす機械」なども導入されており、常に機械音がなり続けている環境だったそうです。)
また、施設の外の人達に実験報告をしたり、論文に対して意見を求められたり、広報と相談したり、執筆活動をしたりと研究者としてのミッションもこなしています。

どんなトラブルや問題が発生したのか?

バイオスフィアの中では下記のようなトラブルが発生し、臨機応変に対応して危機を乗り切っています。

・酸素量が予想外に減少した。

通常、酸素は空気中の約20%を占めていますが、バイオスフィア内では約14%まで酸素が低下しました。
(酸素濃度が16%を下回った時点で頭痛、息切れ、睡眠障害といった高山病の症状が発生します。)
この時は対策として、やむなく外部からの純酸素を供給しました。

~酸素低下の原因~
この酸素低下の根本的な原因はコンクリートにありました。コンクリートは施設の基礎に使われていました。コンクリートは炭酸ガスを(CO2)を吸収して炭酸カルシウム(石灰石)になります。特にバイオスフィア内は炭酸ガスが多かったため、コンクリートが通常の約10倍もの炭酸ガスの吸収力を発揮しました。
炭酸ガス(CO2)は構成要素に酸素(O2)が含まれています。
結果として空気中の酸素は「酸素→炭酸ガス→石灰石」となってしまい、バイオスフィア内の酸素不足を引き起こしました。

・1日あたり平均2000キロカロリー前後の食事しか確保できない。

バイオスフィアでの生活は農場の面積に制約があり、食料は常に不足していました。
対策はとして、性別、年齢、仕事に関係なく「盛り付けは平等」というルールを設定しました。
また、料理担当者は食料品目ごとに記録を残して毎日摂取しているカロリー、タンパク質、脂肪の摂取量が基準をみたしているか計算して確認して栄養管理を実施して乗り切りました。

・ゴキブリの爆発的繁殖

建設中に侵入したゴキブリが途中から大量発生しました!はじめは地下室だけにいたゴキブリは次第に台所や農場にまで拡大していきました。本来は落ち葉を食べる役割があるのですが、それだけでなく農園のトマトやサツマイモの葉、かぼちゃの花までむしゃむしゃ食べるようになって手に負えなくなっていきます。
対策として、ゴキブリの卵に寄生して増殖を防いでくれるスズメバチを導入したり、掃除機で吸い込んだりして退治を行っいました。(ゴキブリはニワトリの大好物であるため、餌として与えると卵の生産量も上がるというメリットもはありました!)

・太陽光不足

このシステムで最も貴重な資源が「太陽の光」です。施設はガラスとフレームが日光を遮ってしまうため、もともと光量が減少します。それに加えて冬場は日照時間が少なく、曇りの日が続くと作物の育成に支障がでます。さらに、炭酸ガス濃度も急激に上昇します。
対策として、太陽光を無駄にしないように農場で日の当たるスペースがあれば見逃さずに植物を配置する取り組みを実施しました。また、電球を使った人工光での栽培にも取り組んでいます。

・炭酸ガスの乱高下

炭酸ガスは「呼吸」によって発生します。また、コンポストで堆肥を作る時にも炭酸ガスが発生します。
この炭酸ガスを減らす一番の方法は植物に光合成の能力を最大限に発揮してもらうことです。
しかし、冬場は日照時間が少なく光合成の能力が下がってしまします。そのため、空気中の炭酸ガス濃度があがるためコンポストを中止し、炭酸ガスを粉末状の石灰(炭酸カルシウム)に変えるシステムを導入して乗り切っています。

今はどうなっているのか?

2年間の実験の後、次の研究者が生活を始めました。しかし、その後すぐに資金を支援していた投資家が管理運営者と対立して実験は中止されました。(この施設の目的が「研究目的」と「利益目的」で対立したようです。。)
その後はコロンビア大学にリースされ、今はアリゾナ大学が運営しています。

まとめ

トラブルはあったものの、結果として「バイオスフィア2で2年間人間が暮らすことはできています!」

この実験は「持続可能な循環型生態系とはなにか?」という疑問を解決する上でとても重要な知見を得ています。
今、私達は原発によって放射能漏れが発生したり、空気が汚かったりといった環境が悪くなれば引っ越しをして避難することが可能です。
しかし、バイオスフィア2のような小さな循環サイクルの中では逃げることはできません。
本来、地球でも同じことが起こっており、このままだと本当に人類は逃げ場がなくなるということに危機感を感じる必要があります。

これからは持続可能な地球環境を作るために「エコロジー」と「テクノロジー」を融合し、みんなでこの問題に立ち向かっていきましょう!!

参考書籍
・バイオスフィア実験生活 史上最大の人工閉鎖生態系での2年間
アビゲイル・アリング、マークネルソン 著
平田 哲隆 訳

~おすすめ書籍~
・バイオスフィア実験生活
内容:人間が実際に循環型生態系の一部となって2年も生活を赤裸々に語った一冊。1996年に出版された古い本のためアマゾンでは中古でプレミアがついてますが地球の環境問題について考える上では一度読んでおいた方がよい本です。

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