「改正漁業法」とは?日本の漁業はどう変わるのか?

「改正漁業法」とは?

2018年12月8日に「漁業法改正案」が成立しました。ニュースでは外国人就労者を受け入れる「入管法」の方が大きく取り上げられており、世間の注目度は低いですが「漁業法の改正」「水道法の改正」と合わせて私たちの食生活に関わる重要な改正です。水道法改正についてはこちらの記事に詳しく記載しています。
「改正水道法」とは?日本の水道水はどうなるのか!?
今回は「漁業法改正」について概要から懸念事項までわかりやすく解説していきます。

なぜ「漁業法」を改正する必要があるのか?

水産庁の資料には下記理由で漁業法を改正する必要があるとしています。

漁業は、国民に対し水産物を供給する使命を有しているが、水産資源の減少等により生産量や漁業者数は長期的に減少傾向。他方、我が国周辺には世界有数の広大な漁場が広がっており、漁業の潜在力は大きい。適切な資源管理と水産業の成長産業化を両立させるため、資源管理措置並びに漁業許可及び免許制度等の漁業生産に関する基本的制度を一体的に見直す。水産庁の資料より引用

つまり、漁業での「新しい資源管理システムによる水産資源の維持・回復」と養殖による「水産物の生産量の増加」をするために法律を改正する必要があったのです。

「改正漁業法」の2つの柱とは?

今回の法改正は
①新たな資源管理システムの構築
②養殖・沿岸漁業の発展に資する海面利用制度の見直し
の2本柱となっています。

それぞれについて解説していきます。

①新たな資源管理システムの構築

養殖の漁獲量は伸びていますが、天然の水産資源はすでに頭打ち状態になっているため水産資源をきちんと維持管理していかなければ資源は枯渇してきます。

資料:FAO
「Fishstat(Capture production 1960-2008)及び農林水産商「漁業・養殖生産統計年報」に基づく。

そのために科学的根拠をもって「漁獲可能量」をTAC制度(Total Allowable Catch)決めていこうということになっています。

また、資源管理をする上での漁獲可能量の割り当てシステムも大きく変わります。
従来の「非個別割り当て方式」ではなく「個別割り当て方式(IQ)」にするのが基本となります。

旧システム「非個別割り当て方式」とは?

漁獲可能量を個々の漁業者ごとに割り当てることなく各種規制の下で漁業者の漁獲を認め、漁獲量の合計が上限に達した時点で操業を停止させることによって漁獲可能量の管理を行うもの。水産庁の資料引用

つまり、従来のこの方法は「早い者勝ち」のシステムでみんな一斉に競うように漁に出て漁獲量を確保します。そのため、短い期間で同じ魚種が大量に水揚げされて市場にでてくるため魚の価格も低下し、余った魚は廃棄されるといった問題点があります。

新システム「個別割り当て方式(IQ)」とは?

漁獲可能量を漁業者又は漁船ごとに割り当て、割当量を超える漁獲を禁止することによって漁獲可能量の管理を行うもの。水産庁の資料引用

新システムでは漁船ごとに漁獲量がすでに決まっているため獲りたい時期に漁をすることができます。目的とする魚がまだ小さければあせらずに漁獲の時期をずらすことができます。さらに、このシステムの最大のメリットは収獲物を価格が高い時期に適切に販売できることです。また、魚種にもよりますが年間を通して安定した供給ができるようになります。

②養殖・沿岸漁業の発展に資する海面利用制度の見直し

そして、今回の法改正の2本柱のもう一つが養殖を発展させるための「海面利用制度(漁業権)の見直し」です。簡単に言ってしまうと「民間企業が養殖事業に参入しやすくなる」ということです。

養殖や沿岸漁業をする上で「漁業権」は必ず必要な免許で、今までは地域の漁業協同組合や漁業者に優先して与えられていました。そのため、民間企業が新規参入する場合は漁協に許可を取り、漁業権行使料等を支払う必要がありました。しかし、今回の改正によって法律上の優先順位に差はなくなり、民間企業が漁業権を得ることができるようになりました。

超曖昧な優先順位は残っている。。
法律上の優先順位に差はなくなりましたが、水産庁の文面には下記の記載があります。

既存の漁業権者が漁場を適切かつ有効に活用している場合は、その者に免許。既存の漁業権がない等の場合は、地域水産業の発展に最も寄与する者に免許。

漁業権の免許の基準がとても曖昧なのです。今回の法律では都道府県知事が「漁場を適切かつ有効に活用する者」であると認めれば漁業権が出てしまうため、既存の漁業者との新規参入企業の間で問題は起こりそうです。。。

 

その他の改正事項

また、この2本柱の他にも遠洋・沖合漁業での漁船のトン数(サイズ)制限を緩和して、漁船の大型化を促進させて生産性を高めるといった内容も盛り込まれています。

まとめ

今回の法改正は漁業を成長産業化するための「70年ぶりの抜本的な見直し」と銘打たれて実施されました。曖昧な部分や漁業との既得権益との摩擦による問題はこれから多発すると思いますが、法改正の内容からは「これからの水産物の未来をよくしよう!」といった思いも感じられました。

ただ、「民間企業を次々に養殖事業に参入させて、たくさん養殖をすれば食料問題を解決できる」と考えだすと話は変わってきます。マグロなど食味性が高く価値の高い魚介類は生態系の上位の生物であり餌として魚粉が必要なのです。(イワシ等の植物ブランクトンを食べる魚は別ですが)養殖を畜産業と同じに考えてはいけないのです。
「養殖業」が「畜産業」ほど発展しない理由
それを踏まえたうえで、「餌の供給から魚の生産までを持続可能な形でできる養殖業」を実現させたいと考える新規参入者が増えてくるとさらに養殖業は大きな発展を遂げると考えています。

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