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日本中で「サーモン養殖ブーム」到来!?
サーモン養殖は儲かるのか?
今、日本各地でサーモンの養殖事業に新規参入する企業が急激に増えています。
特に地域の特色を活かした「ご当地サーモン」や「閉鎖循環式陸上養殖で養殖したサーモン」など様々なサーモンが養殖されています。
ですが、こんなに日本中でサーモン養殖を始めるということは「よっぽど儲かるのか?」という疑問がでてきます。
このブログでは「農業」や「養殖」等、自然との人間の共存を目指していろいろなテーマを取り上げていますが、私の専門は「陸上養殖」です!
今回は養殖の専門家目線でサーモンの養殖について解説していきます。
サーモンについての基礎知識
「サケ」と「マス」、「サーモン」と「トラウト」って何が違うのか?
まずは基礎知識からです。
サケとマス、サーモンとトラウトは何が違うのでしょうか?
この違いはかなりややこしいです。。。
分類学的にはサケ類とはサケ科のサケ属、及びタイセイヨウサケ属に含まれる魚種を指します。
サケ属の中にはギンザケ、ベニザケ、サクラマス、ニジマスなどがあり、
タイセイヨウサケ属にはアトランティックサーモンやブラウントラウトがあります。
つまり、「分類学上」は明確な区別はできません。
「サケ」も「マス」も「サーモン」も「トラウト」もごちゃごちゃで品質の優劣もありません。
しかし、スーパーなどの消費市場ではこれらの名前によって意味が変わってきます。
消費市場での一般的な意味としては
「サケ(サーモン)」=海面で漁獲された大型の魚
「マス(トラウト)」=内水面(淡水)で漁獲された小型の魚
となります。
市場の価値としては
「サケ(サーモン)」の方が「マス(トラウト)」よりも高価であることが多いです。
※さらに曖昧なポイント
ニジマスは海で育つとトラウトサーモンとよばれるため、
サーモンであるかトラウトであるか曖昧になり混乱が生じています。
また、市場では「サケ」と「サーモン」の違いは、
塩漬けや缶詰に加工したものを「サケ」
生で食べるもの(刺身)を「サーモン」
と呼ぶことが多いです。
サーモンが生で食べることができる理由はサーモンはほぼ養殖場で育てられており、
その場で収穫・活き〆といった十分な鮮度管理ができるためです。
どのような種類のサーモンが養殖されているのか?
世界最大のサーモン養殖国のノルウェーです。
ノルウェーでは世界のサーモン類の養殖量の約半分の130万トンを生産しています。
そこで生産されている品種は「アトランティックサーモン」と「トラウトサーモン」の2種類がメインです。
(日本のすべての養殖生産量は約120tであるためものすごい用の生産量です。)
世界第2位の生産国であるチリは「トラウトサーモン」、「アトランティックサーモン」に加えて「ギンザケ」の養殖も盛んです。
日本でも全国各地でサーモンの生産が盛んになっており、全国で50種類以上のご当地サーモンがでてきています。
サーモンの種類は世界で主流の「アトランティックサーモン」、「トラウトサーモン」、「ギンザケ」だけでなく、
「アキサケ」や「ベニザケ」を育てている養殖場もありあります。
また、ニジマスの品種改良したものや、バイオテクノロジーを利用して、
全雌化した品種である「スペシャルトラウト」と呼ばれるも品種も出てきています。
サーモンの養殖方法
サーモンの養殖はどのような方法があるのか?
サーモンの養殖方法は大きく分けて「海面養殖」、「内水面養殖」、「陸上養殖」の3種類があります。
①海面養殖とは?
「海面養殖」とは特定の海域で人工的ないけすを作り、その中で養殖をする方法です。
世界のサーモン養殖もほとんどは海面養殖です。
日本ではブリなどを出荷した後にいけすが空いている期間(12月~5月)ができてしまうため、
その期間を活用するために海面養殖でサーモン養殖が行われています。
②内水面養殖
「内水面養殖」とは湖沼や河川で養殖することです。
スペシャルトラウトである「信州サーモン」や「絹姫サーモン」は内水面養殖で育成されています。
③陸上養殖
「陸上養殖」とは陸上に水槽を作り、その中でサーモンを養殖します。
陸上養殖の中には「かけ流し式」と「循環式」があります。
「かけ流し式」は陸上に水槽はありますが、使う水は海や川からポンプでくみ上げて、汚れた水は排水します。
一方、「循環式」は陸上に水槽があり、汚れた水は排水せずにろ過して再利用するシステムです。
循環式の養殖方法についてはこちらの記事で詳しくまとめています。
「循環式養殖」の特徴とは?どのように水質管理をするのか?
餌はどのような餌を使用しているのか?
餌はペレットが主流です。
ペレット(餌)の原料は50%以上が魚粉でできており、
それに加えて小麦粉、でんぷん粉、コーングルテンミール、大豆の油粕、
魚の油、植物性油脂、アスタキサンチンなどがブレンドされています。
また、日本のご当地サーモンの中には地域の特産品のフルーツなどをフレンドした飼料を与えることで、
ブランド化をしている企業もあります。
養殖サーモンのにはどのような疾病があるのか?
サーモン養殖では多くの感染症による疾病が問題になっています。
その中には寄生虫によって発生する「サケジラミ」や「鰓アメーバ病」、
ウイルスによって感染する「アルファウイルス感染症」、「伝染性貧血症」、「伝染性膵臓壊死症」などがあります。
また、細菌感染によって発生する「ピシリケッチア症」などの病気もあります。
これらの病気は魚種や育成環境(密度や水質)によっても発生率は大きく変わるため、各地でそれぞれの対策が必要となります。
なぜ、日本はサーモン養殖ブームになっているのか?
「ご当地サーモンブーム」の理由とは?
日本では50種類以上ものご当地サーモンが出てきています。
サーモン養殖が伸びてきている理由としては下記のような理由があります。
①サーモンの国内需要が安定している。
②既存の養殖魚を生産すると生産過剰になって価格が下がるため、需要の大きいサーモンは参入しやすい。
鮭といえば今までは塩漬けにした切り身を焼いて食べるのがメインでしたが、
今は回転ずしても人気ナンバー1になるくらい生で食べる「サーモン」の需要が増えています。
例えば、サーモンではなく「ブリ」や「マダイ」などの養殖生産量を増やすと、
全国的に生産が過剰になって価格が急激に落ちてしまいます。
しかし、需要が多いサーモンは値段が下がりにくいといった特徴があります。
また、ご当地サーモンを育てることで地域の特産品となり「地域活性に繋がる」ことからも
サーモンの養殖を始める企業が増えてきています。
販売の課題と問題点とは?
こんなにサーモンばっかり養殖して、ブランド化や差別化はできるのか?
日本で多くの企業が参入しているご当地サーモン養殖ですが下記のような問題も抱えています。
①輸入品との競合
②コストの問題
③差別化が難しい問題
日本で生産したサーモンは「国産サーモン」として販売することで
海外からの輸入品よりも付加価値はつくかもしれません。
しかし、輸入サーモンとの競合は避けられません。さらに、輸入品と戦うとなると「コスト」の問題が出てきます。
日本で育てるとどうしても人件費や電気代、餌代などのランニングコストが高くなるため価格で競うのは非常に厳しいです。
そのうえ、国内でも同じような考えでご当地サーモンが乱立している状態になってきています。
それぞれがPR合戦をしてプレミアムサーモンとして付加価値を出そうとすることで、
国内でも競合が多発する厳しい状態になっています。
つまり、生産しても高単価で販売するのが非常に難しいという問題点があります。
養殖サーモンはホントに儲かるのか?
今回のまとめを踏まえてサーモン養殖の今後を考察!!
正直、なんでこんなにもご当地サーモンが全国でブームになっているのかとても疑問です。
国内で養殖しても輸入品にコスト面で勝てないサーモンで養殖を始めてもかなり厳しいです。
「国内産」という付加価値をつけてブランド化して、高単価で販売する戦略で多くの企業が養殖をはじめます。
しかし、国内でこんなにも養殖業者が乱立して出てきたらブランド化も難しくなります。
さらに、海面養殖でもコスト面でかなり厳しい状況のです。
さらに近年ではさらに多くのコストがかかる陸上養殖でサーモン養殖をする企業もでてきてます。。
(これはかなり厳しい経営になることが予想できます。)
結果として、現状はサーモンの養殖で儲けるのは非常に難しいです。
今後はサーモン養殖の餌となる魚粉の原料である魚も不漁によって価格が根上がればさらに経営を圧迫します。
(水産物の養殖がなかなか発展しない理由はここにあるのですが。。詳しくはこちら)
これからの水産養殖を発展させるためには、「餌の生産」、「種苗の生産」、「育成ノウハウ」をすべて揃えてやらなければなりません。そのための準備をせずにサーモンの養殖ブームに乗っかると、ただのブームに振り回されて痛い目をみることになるので注意が必要です。
参考書籍:
・よくわかるジャパンサーモン養殖 Salmon Farming in JAPAN
種苗生産から海面養殖までの生産技術と最新研究 全国ブランドサーモンリスト収録・月間養殖ビジネス AQUA CULTURE BUSINESS
2019年3月号 世界のサーモン養殖・月間養殖ビジネス AQUA CULTURE BUSINESS
2019年4月号 ジャパンサーモン市場の幕開け・改訂 水産海洋ハンドブック
~おすすめ書籍~
・よくわかる!ジャパンサーモン養殖
養殖を成功させるには、コストを低くする必要があります。
*適地の条件(①製品の加工流通業者がいる。②種苗生産システムが整っている。(疾病対策・輸送コストが掛からない。)③設備投資が少ない。④飼育期間が長く給餌がし易い。⑤水替わりが良い。(海面汚染が少ない) ⑥大規模養殖が可能。)宮城県では、市場機能が十分残っており換金がし易い。
*養殖を保護する制度 (①漁業共済。②積立プラス。)
*当面の目標は、生産コスト500円/㎏以下・粗利益100円/㎏以上・生産量200t/軒とする。