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なぜ、キューバの有機農業が日本の農業復活のカギになるのか?
衰退していく日本の農業を復活させるため、非常に参考となる「キューバの有機農業」について解説していきます。独特の成長を遂げたキューバ有機農業の方法は日本の農業の活路になる可能性があります!
なぜ、「キューバ」なのか?
日本の農業は少子高齢化によって、農業人口は急激に減少しています。また、1次産業である農業は「儲ける」のが非常に難しいビジネスであり、新規で若者が農業をやりたいと思ってもなかなか新規参入者を増やすことができていません。このまま行くと、農業はさらに衰退していきます。
もし、この状況で日本に経済危機が来て化学肥料、農薬、農業機械、石油が輸入できなくなり手に入らなくなればどうなるでしょうか?日本人は確実に飢えてしまいます。
国として外貨をきちんと稼げていれば、日本人は飢える心配はないという方もいます。しかし、自分たちの命をつくる食べ物をすべて海外に頼っていていいのでしょうか?
そこで、日本の今後を考える上でとても参考になる国が「キューバ」です。農業大国であるアメリカやオーストラリアではなくなぜキューバなのか?それは、キューバはソ連崩壊による経済危機により、国民が餓死寸前まで追い込まれた後に「有機農業によって奇跡の復活を遂げた国」だからです!!
「キューバ」とはどんな国なのか?
「キューバ」はフロリダの南に横たわり、メキシコ湾の入口に位置する東西に延びた細長い島国です。面積は日本の本州の約半分程度で国土の6割が低地となだらかな丘で残りが山岳地帯です。河川も200以上あり、あまり知られていないですが、有機農業先進国です。
そんなキューバですが、有機農業の歴史は浅いです。有機農業の発展のきっかけは1991年のソ連崩壊にともなう深刻な経済危機です。アメリカにも貿易が封鎖されて、キューバの既存の農業は石油、農薬、化学肥料、農業機械が手に入らなくなりました。さらに、輸入食糧も半減して、牛肉や豚肉は手に入らず、パンは1日1個に制限されて、1人の1日あたりのカロリー摂取量は30%もダウンしました。栄養失調により多くの人々が失明し、餓死寸前の状況にまで追い込まれてしまったのです。
このような状況で石油資源に依存している「近代農業から、地域資源を活用した有機農業に一気に転換して奇跡の復活を遂げた国」なのです。
キューバはどうやって経済危機から奇跡の回復を遂げたのか?
キューバの食料危機は酷い状況で、物資も入ってこない。そんな中、食料危機から回復するためには輸入資源に依存しない食料生産方法が必要不可欠でした。近代農業は大型機器や農薬、化学肥料に依存しているため、キューバは国を挙げて有機農業に転換しはじめました。
結果としては、1994年に1990年の55%にまで落ち込んだ農業生産量は驚くべき速度で回復し、1996年には95%まで回復しそれ以降はほぼ正常に戻るまでになりました。
「近代農業から有機農業への転換」によってキューバは食料危機から回復することができたのです。
有機農業への転換は具体的にどのようなことをしたのか?
近代農業から有機農業への転換と言っても簡単ではありません。転換後の5年間は以前の生産水準に達するまでに時間がかかります。土の力が戻り、微生物や昆虫などの生態系のバランスがもどるの時間が必要なのです。
また、キューバは気候的に年間平均気温が約25℃で年間の降水量も多く病気や害虫が発生しやすいため、冷涼で降雨量が少ない欧州と比較してももともと厳しい条件です。それでも、キューバは有機栽培への転換を実現しています。
その理由についてまとめていきます。
「疲弊した土壌」を復活させた!!
有機農業への転換前からキューバの土壌は化学肥料と農薬を多用する近代農業の影響で有機物が少なく、非常に痩せた土地になってしまっていました。その中で、「オーソドックスな自然を活用した方法」と「最先端科学を利用した方法」をミックスした有機農業をすることで復活させました。
その方法は多岐にわたりますが、非常に特徴的なのは下記の4項目です。
①ミミズの堆肥の利用
土づくりで最も大切なのが堆肥(肥料)です。キューバでは経済危機によって化学肥料が以前の4分の1しか入手できなくなりました。そのため、未利用の有機資源(都市ごみ、家畜の糞、サトウキビの搾りカスなど)を堆肥の原料として有効活用するようになります。そして、キューバでは堆肥作りにミミズを活用しました。ミミズのパワーは素晴らしく、ミミズが生み出したミミズ堆肥は成分的にも安定していて5年間は効果が続き、窒素も多いのです。さらに、ミミズ堆肥と牛糞を比較するとたばこの畑の場合、ミミズ堆肥4tは牛糞45tに匹敵する効果があり、収量も3割以上増えたというから驚きです!!
~ミミズ堆肥の作り方~
ミミズ堆肥の作り方はコンクリートの桶にサトウキビやオレンジジュース工場で出た有機性廃棄物や牛糞を10cm程度入れます。そして、1m2あたり200尾~2500尾のミミズを投入します。10日ごとに有機物や牛糞を10cmづつ増やしていき最終的には60cmまで積み上げます。こうして約3か月で堆肥が出来上がります。ミミズも最終的には1m2あたり2万尾以上に増殖するというからスゴイ繁殖力です。そして、増えたミミズは鶏や魚の餌として使います。
(日本で養殖魚の餌として魚粉の代替えタンパクとしてミミズは期待できそうです!!)
②微生物肥料の活用
化学肥料の代替えとして、バクテリアを活用しています。キューバで微生物肥料のメインとなるバクテリアは3種類で「空気中の窒素を固定するアゾトバクター」、「不溶性のリンを根に吸収させることができるようになるVA菌根菌」、「マメ科作物に効果的なリゾビウム菌」が活用されています。
③緑肥作物との混作・輪作
ミミズ堆肥と微生物堆肥だけでは肥料としての量が足りません。不足分をすべて堆肥にすると輸送するのに燃料とコストがかかってしまします。そこで、土壌の力をアップさせるために実施するのが「緑肥作物との混作・輪作」です。「緑肥」とは栽培している作物を収穫しないで土にもどしてしまうことです。農作物は同じ土地で同じ作物を繰り返し生産すると同じミネラルばかりが吸収されて生産量が落ちてしまいます。このような状況を「連作障害」といいます。これを防ぐために、緑肥やさまざまな作物を一緒に混作します。これは土地の持続可能性を高めるすばらしい技術です。(デメリットとしては一気に収穫できないため、機械化した近代農業には不向きです。)
④石油不足による牛耕の復活
石油不足で農業機械が動かせないため、キューバでは牛を飼って牛で土地を耕す方法を復活させました。仕方なく始めた牛耕すですが、牛は肥料源となる牛糞が得られるという大きなメリットがありました。確かに、機械化した方が効率はいいかもしれません。しかし、持続可能な農業として考えると畜産業と農業がきちんと循環して成り立っている牛耕す方が理想的なシステムなのかもしれません。
病害虫との戦い!!
キューバは暖かく湿度も高いため、有機農業をやる上で害虫対策は必須になります。そこでキューバは害虫対策として下記のような対策を実施しています。
①害虫の天敵となる昆虫の導入
害虫となる虫を捕食して食べてしまう昆虫を大量に飼育して農場に放ちます。そうすることで農作物の害虫被害を防いでいます。
②バクテリアを利用したバイオ農薬の利用
人体には無毒で、害虫には有毒なバクテリアやカビが利用されています。成果を上げているのはバチルス菌、ボーベリア菌、パーティシリウム菌、トリコデルマ菌などがあります。
技術の裏付けがある。
キューバが近代農業から有機農業に転換できた大きな要因として「技術の基礎があった」ことが大きいです。転換が起こるまえの1970年代から農薬漬けの農業に変わるために有機農業の地道な研究が行われていました。(近代農業が盛んな時期は受け入れられませんでしたが。。。)しかし、国の指導者であるカストロが食料問題を最重要課題として近代農業から有機農業に転換する「スペシャルピリオド」の後にこの研究の蓄積が花開きます。
ミミズ堆肥用のミミズの選定も一人の男によって世界中で6000種類以上あるミミズの中からすでに最適な2種類を選びだしていました。
転換が終わった現在もキューバは、教育改革によりすべての大学に有機農業の講座があるなど世界でも注目される農業国になっています。
まとめ
安心、安全な有機農産物を生態系の力と最新の科学を使い、無駄な費用をかけないキューバの農業は素晴らしいです。日本もこれからはキューバを見習って、農業を進めた方が日本人のためになります。
しかし、現在の国の方針は最悪です。種子法を改正たことで、農作物の種はグローバル企業の農薬に強い遺伝子組み換えやゲノム編集種子(F1品種)になっていきます。そして、農薬をたくさん撒いて、肥料もセットで買わなければならなくなります。益々、食の安全はなくなり、資材の輸入がストップすれば生産自体もストップします。(石油がストップしても完全にアウトです。)
国がダメなら、これからは地域で生態系を作っていかなければなりません。日本のそれぞれの地域がキューバのような1つの国としてやっていくしかないのです。そんな、地域を日本中に増やし、自分たちで今後の日本の食料安全保障を守っていかなければならない時代になってきています。
さらに、地球は自体も大きな視点で見れば閉鎖型の空間であるため、石油や天然資源が枯渇した際にはキューバと同じようなことになります。人類を滅亡させないためにも世界中にこのような取り組みを広げていかなければなりません。
参考書籍
・小さなキューバの大きな実験
有機農業が国を変えた 吉田 太郎 著・200万都市が有機野菜で自給できるわけ
都市大国キューバレポート 吉田 太郎 著
~おすすめ書籍~
・小さなキューバの大きな実験 有機農業が国を変えた
内容:経済危機により、近代農業から有機農業に切り替え奇跡の回復を遂げたキューバの農業モデルが詳しく書かれており、日本の今後の農業を考える上でとても参考になる一冊です。